【問い】
なんで『“歯医者”に行く』って言うのかな?言いやすい けどなんか変じゃない?歯科医院なんて言いにくいからかな。

【模範解答 その1】「・・・の所」省略説

 格助詞「に」は動作の到着点・帰着点を受けるわけだから、本来「医者」という職業名(あるいは人名)を受けるのはおかしい。しかしながら、医者という職 業と、病院あるいは医院という施設名と、どちらが先に成立したかと言えば、おそらく医者という職業の方だろう。近現代以前にも病院・医院というものはあっ たかもしれないが、医者という職の起こりの古さには遠く及ばないのは推測できる。

 となれば、医者は必ずしも病院にいるとは限らなかったということになる。非常に庶民的なあばらやを居住まいとしていたかもしれない。これは地域的な差こ そあれ、医者に限らず“専門職”を生業としていた者はみな同じような立場だったと推測できる。肉屋や魚屋が必ずしも店を持たず、ある道ばたを特定の売り場 としていたかもしれないし、大工なども必ずしも工務店を構えているとは限らなかったであろう。

 それでは「精肉店に行く」「鮮魚店に行く」「工務店に行く」「病院に行く」と言わずに庶民はなんと言ったか。やはり「肉屋の所に行く」「魚屋の所に行 く」「大工の所に行く」「医者の所に行く」と言ったのではないか。

 そのうち「・・・の所」が省略され、職業名があたかも場所名であるかのような用法に転じたのではないかと思われる。よって「歯医者に行く」は正しい用法 なのである。


【模範解答 その2】受け身・使役の動作省略説

 格助詞「に」には受け身・使役の相手・対象を表す用法がある。つまり「○○に〜してもらう」とか「▲▲に〜される」といった用法である。「歯医者に歯を 診てもらいに行く」「肉屋に肉を売ってもらいに行く」。見ての通り、非常にくどい言い回しとなる。それは受け身・使役の対象が専門職であるからだ。歯医者 に胃の具合を診てもらう者はいないし、肉屋へ行って材木を売ってもらう者はいないのである。よってその受け身となる動作そのものを略したのではないかと思 われる。よって「歯医者に行く」は正しい用法なのである。